赤ちゃん股関節脱臼の知識

新生児・赤ちゃんに多い股関節脱臼の発症原因と主な症状、お母さんができるチェック診断項目、治療法と装具療法の解説。

◆赤ちゃん股関節脱臼の解説(もくじ)

◆赤ちゃんに発症しやすい股関節脱臼の種類と特徴・病院での診断と検診について

 新生児・赤ちゃんの病気の中でも股関節に異常が見られる疾患はとても多く存在します。特に股関節の脱臼は赤ちゃんに発症しやすい障害のひとつでもあり、生後数週間~数ヶ月で股関節状態の形成不全の可能性を指摘されるケースも多いものです。但し、乳幼児期にしっかりと対処しながら成長すると幼児期には多くの場合で股関節状態が改善され全く問題なく過ごせるようになるケースが大半ですから、もし病院で指摘を受けたとしても過度に不安に思う必要はありません。ここでは赤ちゃんに発症しやすい脱臼の種類と特徴、病院での診断と検診に関する基礎知識ついて確認しておきましょう。

【赤ちゃんの股関節は不安定】

 赤ちゃんの股関節は成人の股関節と比較するとまだ柔らかく股関節そのものが未発達段階であることを把握する必要があります。
 その為、赤ちゃんの股関節は脱臼しやすいという特徴があり、また様々な股関節障害を発症しやすい傾向にあることを覚えておきましょう。
 赤ちゃんの股関節障害の中でも特に多く発症傾向が見られる脱臼症状は以下の3つが代表的です。

【赤ちゃんに発症しやすい股関節脱臼の種類】
★股関節完全脱臼
★股関節の亜脱臼
★臼蓋形成不全

 股関節完全脱臼とは、股関節がずれてしまったり、関節から大腿部の骨頭部分の球関節が外れてしまうなどの脱臼を起こす病気です。
 通常、股関節を形成する球関節部分は簡単には外れない構造となっておりますが、赤ちゃんの場合は前述した通り股関節の形成そのものが未発達であるため、おむつの交換時などの負荷によっても脱臼症状を発症してしまうようなケースも存在します。
 また亜脱臼とは赤ちゃんの関節がはずれかかっている状態を示し、股関節内に大腿骨頭がしっかり収まっていない不安定な股関節状態の事を指します。
 股関節亜脱臼は最終的に完全脱臼に至る場合が多い為、しっかりとした対処を行なうことが重要です。
 臼蓋形成不全とは、股関節の屋根に当たる部分、大腿骨骨頭がはまる部分の発育状況が順調に進んでいない時に生じる股関節障害で大腿骨骨頭がしっかり股関節内にはまることができない為、関節の摩耗や脱臼症状を発症する傾向をもつ疾患です。

◆赤ちゃんの股関節の診断・検診について

 赤ちゃんの股関節脱臼の診断は自分でもある程度の症状から推測は可能ですが、疑いがある場合は必ず医師の診断を受ける事が必要です。
 後述する先天性股関節脱臼は大抵の場合、産後の乳児検診の際に発見されます。
 これは生後すぐに股関節の可動範囲及び可動域のチェックをおこなうためです。
 しかし、医師の経験・熟練度によっては脱臼を見抜けないケースも残念ながら存在するため少しでも疑いがある場合はエックス線によるチェックを行うようにしましょう。
 生後間もない赤ちゃんの場合は早期発見ができた場合、早い段階で治療を開始できるためその後の改善状況にも影響を与えます。
 また、おむつなどの交換の際も注意をはらい股関節に無理な動きをさせないよう心がけることも重要です。
 尚、症状が最も多く発見されるのは、生後3~4ヶ月、症状がしっかりと確認できるのは生後1ヶ月以降となります。

◆股関節異常の可能性をもつ代表的な症状の特徴

 赤ちゃんの股関節異常の可能性は日常生活の中でもある程度見極めることが可能です。幾つかのチェック項目を日々観察することで脱臼症の可能性や股関節形成不全の可能性の早期発見にも繋がるためママさんは代表的な症状の特徴を把握しておきましょう。

【日常生活の中で観察しておきたいポイント】

 赤ちゃんの股関節脱臼の有無については、まずは病院での診察を受けることが大切です。
 また病院で特に指摘を受けなかった場合であっても日ごろの観察、チェックでお母さんが股関節の状態を確認することも可能です。
 赤ちゃんに多く確認される股関節異常の可能性をもつ症状の特徴を以下にまとめます。

【股関節異常の可能性をもつ代表的な症状の特徴】
★股関節を動かすとポキポキッ!と異音が鳴る
★股関節の可動範囲が狭く動きが硬く感じる
★足の長さが左右異なる(やさしく伸ばしてあげると解ります)
★左右の足のシワの数が違う(大腿部中心)
★適切なサイズのおむつなのに片足だけつけづらい

 以上のような症状が見られる場合は、一度やはり病院の診察を受ける事が大切です。
 尚、これらのチェック項目を観察する際は決して力を入れて確認してはいけません。
 あくまで自然の範囲で赤ちゃんの股関節の状態を確認をしてみましょう。

◆お母さんにできること

 股関節の亜脱臼は赤ちゃんに多く発症する股関節障害のひとつであり前項でも解説した通り亜脱臼では完全に股関節から脱臼していない中間の状態の事をあらわします。
 赤ちゃんは股関節が脱臼しても当たり前ではありますがその症状を訴える事は出来ません。
 そして赤ちゃんは実際に完全脱臼していても泣いて訴える事もないので発見がおくれてしまう傾向にあります。
 亜脱臼の段階で、早期治療を開始した場合は、股関節脱臼はほぼ100%回復する事が可能であるため、前述した観察項目を日々チェックして赤ちゃんの状態を把握しておくことが大切です。

 赤ちゃんの股関節脱臼障害がある場合に、お母さんに出来ることは日常生活からのケア、看護しかありません。
 正しい、知識があれば、早期発見も出来ますし、その対処・治療もスタート出来ますからお勉強も重要です。
 先天性股関節脱臼の治療の基本は、

★日常生活の姿勢の見直し
★装具療法
★牽引などの整形療法
★手術療法

 等の治療法がありますが、多くのケースでは日常生活の姿勢の見直しで回復できる障害です。
 この「姿勢の見直し」は、いつも一緒にいるお母さんにしか出来ないことですから、しっかりと観察・チェックを実践しましょう。

◆臼蓋形成不全の症状の特徴・矯正を基本とする治療法について

 臼蓋形成不全は乳幼児の股関節疾患の中でも割りと多く見られる股関節障害のひとつです。臼蓋形成不全では骨盤の涙痕を基準とした水平線ラインと臼蓋外上縁の角度を示すシャープ角が30度以上となっている場合に臼蓋形成不全の可能性が検討されますが、あくまで臼蓋の角度による診断は目安であり股関節障害を発症している特定とはなりません。但し、将来的に症状が進行していく可能性もある為、乳幼児期に適切な処置を行ない股関節疾患を発症させないように早期に治療を行なっておく事が重要です。

【臼蓋の角度が原因となる臼蓋形成不全】

 赤ちゃんの股関節障害のひとつに臼蓋形成不全と呼ばれる股関節の病気があります。
 この臼蓋形成不全とは股関節の構造上の問題が原因となって発症する股関節の病気です。
 臼蓋形成不全の特徴は股関節の受けの部分である臼蓋部分と、股関節の軸にあたる大腿骨の骨頭部分が上手にはまることが出来ずに関節が安定しないという特徴があります。
 通常股関節は、しっかり関節内に大腿骨の軸となる大腿骨骨頭部分がはまりこむようになっております。
 しかし、臼蓋形成不全の場合はこの受け皿の部分にあたる臼蓋の「角度」が急角度になっているため、すべり、脱臼を起こしやすくなっております。
臼蓋形成不全の診断を行なう際に医療機関で使用されている臼蓋の角度の指標としては「CE角」と「シャープ角」と呼ばれる角度があります。
 CE角に基づく診断の場合は25度以下の角度の場合を主に臼蓋形成不全と診断し、シャープ角に基づく診断の場合は30度~35度(乳幼児の場合は30度以上)を主に臼蓋形成不全として診断します。
 このように関節構造上の発育不全や形成不全が原因となって発症する股関節障害を臼蓋形成不全と呼びます。

【臼蓋形成不全の診断基準】
★CE角=25度以下
★シャープ角=30度以上

◆臼蓋形成不全の治療法

 臼蓋形成不全の特徴は股関節の形状が原因であり容易に脱臼に至る原因ともなるため、臼蓋形成不全の診断を受けた赤ちゃんはしっかりとした治療が必要となります。
 特に股関節は正常に機能することによって、形状・機能も成長とともに安定してくるものですから、初期段階での対応が重要となります。
 臼蓋形成不全の治療法の基本は、基本的には後述する先天性股関節脱臼と同じです。
 基本的な治療としては姿勢の矯正、そして状況がおもわしくない場合は装具の着用による矯正を実施します。
 臼蓋形成不全は、股関節がしっかりとあるべき場所にはまってさえいれば、成長とともに自然に改善していく障害です。
 股関節の関節部分の位置の確認はX線などで状況を確認しながら安定を計るようにしていきます。
 脱臼症と同じくやはり治療の基本は早期発見が何よりも重要であり手術療法などに頼らずに矯正を中心に成長過程の中で改善を計る治療が基本となります。

◆先天性股関節脱臼の発症原因・改善ポイントと治療法

 先天性股関節脱臼は生後3~4ヶ月目の定期健診で診断を受けることの多い股関節疾患の一つです。圧倒的に女の子に多く発症する疾患であり多くは日常生活の改善や装具の利用で改善することが可能です。ここでは、先天性股関節症の赤ちゃんの気をつけておきたい日常生活内の改善ポイントについて確認します。

【9割以上は後天性による股関節疾患】

 先天性股関節脱臼(先天性股関節脱臼症)とは、股関節がずれてしまう、もしくは容易に外れてしまう等の症状を発症する股関節の病気の名称です。
 先天性股関節症の発症率は1000人に一人と高確率で発症する疾患でもあり、その9割以上が女の子に発症する傾向があることも確認されております。
 先天性とは生まれつきという意味がありますがこの言葉から遺伝性の原因が考えられます。
 しかし、現在は遺伝性による発症の可能性は僅かであり、大半は後天性、すなわち生後の環境による発症の可能性が高いことが確認されております。
 ですから担当の医師から「先天性股関節脱臼ですね」と言わても自分を責める必要もありませんし、過度に落ち込む必要も一切ありません。
 先天性股関節脱臼の発症原因の実態は9割以上が後天的なもの、私生活の範囲で起こるものなのです。
 この障害に関しては先天性股関節脱臼という病名であると認識すると良いでしょう。
 尚、先天性股関節脱臼は圧倒的に女の子の赤ちゃんに多く発症します。
 余談ですが我が家の長女も生後4ヶ月目に先天性股関節脱臼症との診断を受けましたが、長男、次男はありませんでした。
 股関節に関する障害は、赤ちゃん、成人、老人に関わらず大半は女性に発症する傾向が顕著に見られます。
 老齢期に多い変形性股関節症の発生割合も大半は女性に発症しております。

◆先天性股関節脱臼の治療方法

 赤ちゃんの先天性股関節脱臼の治療方法は、基本的に日常生活の見直しからスタートします。
 赤ちゃんの正常な股関節の状態はあおむけで足をM字に開いている状態ですから、この状態を自然にキープできる姿勢を計ることが大切です。
 ポイントとしては、以下の2点を意識していくことが基本です。

【普段から意識すべきポイント】
★抱っこの際には足が開く状態を保つ事ができるようにすること
★おむつも締め付けるようなものは避け自然な状態を保つ事ができるものを使用すること

 赤ちゃんの股関節は関節の状態を健全に保つことで発育とともに改善される為、日常生活の見直しだけでも徐々に股関節脱臼の症状の大半は回復していきます。
 尚、症状が中々回復してこない場合や早期改善を計る場合はリーメンビューゲル等の装具の利用を検討します。
 リーメンビューゲルとは、赤ちゃんの股関節の姿勢を正常にキープする矯正装具の事です。
 先天性股関節脱臼症の診断を受ける際に医師から必ず説明を受けると思いますので装具による治療を検討することも大切です。

◆リーメンビューゲルの矯正効果と治療期間・改善率

 赤ちゃんの股関節脱臼の治療方法の一つとしてリーメンヒューゲル装具を利用する股関節の矯正治療方法があります。装具を装着すると見た目が痛々しく見えることから「赤ちゃんがかわいそう」というお母さんもいますが、長い目で見ると装具を利用してあげない事の方が赤ちゃんにとって負担となるケースもある事を把握しておきましょう。赤ちゃんの骨や関節、靭帯は柔らかいので、装具の装着によって正しい状態に回復する可能性は、成人と比較すると比べ物にならないほど改善率が高くなります。尚、医師に装具の着用を求められる場合は既に矯正を行なうべき段階にあるとの診断であると判断しても良いでしょう。

【1週間程度で効果が現れる理由】

 リーメンビューゲルとは、赤ちゃんの股関節を矯正するバンド装具です。
 先天性股関節脱臼や、臼蓋形成不全の治療の際にリーメンビューゲルは頻繁に使用されます。
 リーメンビューゲルを利用した場合、赤ちゃんの股関節は基本的に1週間程度であるべき位置に収まってくるようになります。
 但し、この段階ではまだ股関節の形成が不安定であるため装具の利用は継続し3ヶ月~半年程度装具の着用を継続して観察を行います。
 尚、治療期間については個人差もある為、担当の医師と状況を確認しながら装具の利用期間を決めていきましょう。
 赤ちゃんの股関節はまだやわらかい為、不安定であり容易に脱臼症状を発生してしまいますが、逆にやわらかい事が矯正効果を高めているのも事実です。
 その観点から、リーメンビューゲルは治療効果が非常に高い装具と言えます。

◆乳幼児の最も負担の少ない股関節の間隔とは?

 股関節脱臼の治療を開始後、リーメンビューゲルなどの装具を利用した場合、前述したように赤ちゃんの股関節は基本的に1週間程度で、本来収まるべき位置に関節が収まってくるようになります。
 これは赤ちゃんの股関節組織そのものが柔らかい事から矯正効果が強く働く為です。
 股関節障害は過度に心配される方が多くいますが、大半のケースでは成長とともに関節は安定してきます。
 ポイントは何よりも早い段階で治療を開始してあげることと言えます。
 赤ちゃんの股関節脱臼の主な原因は、赤ちゃんの股関節が正常な状態から逸脱した状態であることです。
 赤ちゃんの正常な状態とは、あおむけの際に、両足をM字に開いた良く見る姿勢です。
 この赤ちゃんの最も自然な姿勢として、赤ちゃん用品の販売などを行っている大手企業「Aprica」は「両足の感覚が36cm程度の範囲がゼロ歳児の赤ちゃんのベストな姿勢である」との研究成果を発表しております。
 リーメンビューゲルはこの自然な姿勢を一定期間矯正することで股関節の改善を計る装具です。
 生後半年以内に装着した場合、完全脱臼でも9割程度、亜脱臼ではほぼ100%の改善効果が見られることが確認されております。

◆股関節脱臼の多い地域について

 余談ですが、赤ちゃんの股関節脱臼などの症状が出やすい地域として、極寒の寒い地域の赤ちゃんに多いというデータがあります。
 この原因は、寒い地域の場合は、赤ちゃんに重ね着をさせることが多く、この重ね着した衣服が、赤ちゃんの股関節を圧迫し、悪影響を与えることが原因と見られております。
 日本では、北海道や東北地域など寒い地域の赤ちゃんに危険性が大きいとも言えるでしょう。
 赤ちゃんの服装の理想は、足をのびのびと動かすことができるゆったりな服装がベストです。
 この事からも乳幼児は股関節の自然なM字角度を保つ事がいかに重要であるかがわかります。